2026年に開催予定の「すみだ五彩の芸術祭」に先駆け、芸術祭のことをより多くの方に知っていただくことを目的に、プレイベントを開催しました。
「すみだ五彩の芸術祭」では、美術の展示作品をはじめ、音楽のコンサートや舞台作品など、さまざまな形での発表を予定しています。
今回はその趣旨を体現するイベントとして、地域の皆さんが参加し、まちなかに展示を展開する「すみだのうわさプロジェクト」と、すみだの歴史を振り返りながら、音楽を通して世代を超えた交流を行い、未来への平和を願う音楽コンサート「未来を生きるあなたへ」を実施しました。
すみだのうわさプロジェクト
イベント概要
日程:2025年10月24日(金)25日(土)
会場:隅田公園そよ風ひろば(25日は雨天のためリバーサイドホール)
https://sumida-artfest.jp/preevent/#sumidanouwasa
「すみだのうわさプロジェクト」は2026年開催予定の「すみだ五彩の芸術祭」に向けたプレイベントです。
アーティスト・山本耕一郎さんによる「まちのうわさプロジェクト」のすみだ版として展開された本企画は、街に息づくさまざまな“うわさ”をリサーチし、それを「うわさ」風の文体でまとめて吹き出しの形にし、実際の街の中に設置するというアートプロジェクトです。

「うわさワークショップ」や、区役所などに設置されたうわさボックスを通じて、地域の人々から“すみだにまつわるうわさ”を集めました。集まったうわさは、「へえ、そうなんだ」と思わず頷いてしまうものから、思わず笑みがこぼれるようなものまでさまざま。特に墨田区に関わりのある方にとっては、地元ならではのエピソードにクスッとしたり、共感したりするような内容が多かったのではないでしょうか。
公園を歩きながら吹き出しを探す体験も、このプロジェクトならではの楽しみのひとつです。「あ、こんなところにも!」と発見するたびに、すみだのまちを新しい目で見るきっかけをくれます。

墨田区ができた当時「隅」の字が当用漢字でなかったそうで、墨田と隅田が混在しているらしい

水やガラスの反射とかでできそうです…!

隅田公園に隣接するTOKYO mizumachiの店舗でもうわさを見ることができます。
イタリア料理をいただけるカフェダイニング「LAND_A」
ちょうど取材をしていた時にワンちゃんを連れたお客さんが店内に入って行きました。

発酵食品など健康でヘルシーなアジア料理がいただける「水 ト 葉(ミズ ト ハ)」

トリミングやペット関連の物販を行う「Salon de BIOGANCE」
当日は、テントにアーティストの山本さんもいて、「うわさバッチ」を配布。訪れた人は、自分にぴったりの“うわさ”を選んで胸に付けて、思い思いに楽しんでいました。種類豊富なバッチを前に、皆さんが真剣に選ぶ姿が印象的でした。

山本耕一郎さん

プレイベント2日目はあいにくの雨により、隅田公園近くのリバーサイドホールでの開催となりましたが、多くの方が足を運び、にぎやかな時間となりました。
隅田公園内に設置された「うわさ」の吹き出しは、今後もしばらく展示される予定。お近くにお越しの際は、ぜひすみだのうわさを探してみてください。
未来を生きるあなたへ
イベント概要
日程:2025年10月24日(金)18:00開演 20:00終演
会場:隅田公園そよ風ひろば(墨田区向島1-3)
出演者
ヴォーカル:坂本美雨|曽我部恵一|アン・サリー
バンド:高田漣(音楽監督・Guitar)|伊賀航(Bass)|伊藤大地(Drums)|ハタヤテツヤ(Keyboards)
地域参加団体:すみだ少年少女合唱団|トリフォニーホール・ジュニア・オーケストラ アンサンブルメンバー
雨が降る肌寒い夕方でしたが、開演を迎える頃には、会場の観客席は多くの人でいっぱいに。
幕開けを飾ったのは、すみだトリフォニーホール・ジュニア・オーケストラ アンサンブルメンバーによるファンファーレ。「アメイジング・グレイス」「A Song for Japan」などの演奏でライブがスタート。


続いて墨田区長・山本亨と、「すみだ五彩の芸術祭」エグゼクティブディレクターの神野真吾が登場。
芸術祭実行委員長でもある山本区長からは、まちなかや隅田川を舞台に主催事業やプロジェクト企画を行う「隅田川 森羅万象 墨に夢」(略称すみゆめ)や、文化施設を含むこれまでの墨田区の文化事業について触れながら、積み重ねてきた文化の力をさらに発揮していきたいという思いとともに、芸術祭開催に至った背景と意気込みが語られました。
続いて神野ディレクターからは、芸術祭の名称に含まれる「五彩」について説明がありました。この言葉は、一見黒に見える墨の中にも多様な色が潜んでいることに由来しています。この「五彩」をコンセプトに据えることで、既に墨田で育まれている多様な文化活動をさらに掘り下げ、墨田に暮らす人や訪れる人がアートを通じてこの地の魅力を再発見できる場にしていきたいと語りました。
また、コンサート「未来を生きるあなたへ」についても紹介があり、プロのアーティストやミュージシャンに加え、ジュニアオーケストラやすみだ少年少女合唱団など、幅広い世代が参加していることが説明されました。関東大震災や東京大空襲で甚大な被害を受けたこの地域の歴史を踏まえつつ、未来へ平和を願うコンサートであることが強調されました。
最後に、「すみだのうわさプロジェクト」が紹介され、見た目だけではわからない、隠れたすみだの魅力や新たな発見を楽しむことができるプロジェクトであり、参加しながら地域の魅力を再発見するきっかけになることが語られました。
その後、神野さんの紹介でギターの高田漣さん、ベースの伊賀航さん、ドラムの伊藤大地さん、キーボードのハタヤテツヤさんが登場。バンドメンバーによる「赤とんぼ」の演奏では、今回音楽監督を務めたギターの高田漣さんが歌唱。低く落ち着いた声で語りかけるように歌う姿が印象的でした。
歌手のアン・サリーさんは、オリジナル曲「スマイル」や、美空ひばりの「りんご追分」、そしてザ・フォーク・クルセダーズのカバーで有名な「イムジン河」、SOUL FLOWER UNIONの「満月の夕」を披露。特に「りんご追分」は、バンドによるレゲエアレンジとアン・サリーさんのかっこいい歌唱が印象的でした。ラストの「あの河のほとり」は、ジュニアオーケストラとのコラボレーション。

曽我部恵一さんのステージでは、「ギター」、「兵士の歌」、「100年後の世界」、加川良の「こんばんは お月さん」、童謡「どんぐりころころ」など、オリジナル曲とカバー曲を披露。「ギター」は2001年のアメリカ同時多発テロを受けて作られたことや、制作した当時の思いなどが語られました。「どんぐりころころ」では、芝生エリアで小さな子どもたちが飛び跳ねながら一緒に歌っている姿が印象的でした。

続く坂本美雨さんのステージでは、リマールの「Never Ending Story」、自身の家族についての思いを正直に綴ったオリジナル曲「かぞくのうた」、エルビス・プレスリーの「Can’t help falling in love」、銀河鉄道の夜にも登場する「星めぐりの歌」を披露。「星めぐりの歌」は、すみだ少年少女合唱団とのコラボレーションでした。夜のひんやりとした空気の中に歌声が広がっていく様子が魅力的でした。

すみだ少年少女合唱団は、瀧廉太郎作曲の「花」と「ふるさと」も披露。「花」は墨田区民の愛唱歌で、合唱団で歌い継がれている曲でもあるそうです。高田さんによる軽やかなアレンジで、団員の皆さんが楽しそうに歌う姿が印象的でした。ライブ最後の曲「ふるさと」はアカペラで静かに歌い上げられ、会場全体が聴き入っていました。

プログラムの幕間では、すみだ少年少女合唱団のメンバー5名による朗読が行われました。朗読されたのは「疎開したおわん」という戦前に墨田で生まれた女性・星野光世さんの人生の物語。疎開や東京大空襲、戦争孤児としての経験、結婚、そして両親の形見のお椀を手にしたことなどが語られます。聴く人それぞれが、その女性の人生を思い描きながら、すみだの土地の記憶と重ね合わせます。





仕事帰りにたまたま公園を通った人など、多くの人が足を止めてライブに見入っており、最後の方は立ち見の方でいっぱいに。2時間のプログラムはあっという間に終了しました。
会場となった隅田公園は、1923年の関東大震災からの復興のために整備され、1945年の東京大空襲後には、亡くなった方々の仮埋葬地にもなった場所です。今回のライブでは、アーティストやミュージシャンの歌や演奏を通して、この土地が抱えてきた過去を振り返りながら、ジュニア・オーケストラやすみだ少年少女合唱団の皆さんのような若い世代との共演によって、これからの未来を思い描くような時間が生まれました。
一方、ライブ会場の隣では、「名前はまだないマーケット」から3店舗が出店。公園近くの「LATTEST SPORTS」で「名前はまだないマーケット」が開催しており、その中から数店舗が隅田公園にも駆けつけてくれました。来場者は音楽を聴きながらホットコーヒーを味わうなど、思い思いのスタイルでコンサートを楽しんでいました。

「LATTEST SPORTS」で開催中の「名前はまだないマーケット」に移動すると、食べ物や飲み物、雑貨など様々なお店があり、賑わっていました。奥のDJブースでは、ライブを終えた曽我部恵一さんが出演。皆さん音楽に合わせて体を揺らしたり、お酒を飲んだり、それぞれに週末の夜を楽しんでいました。

24日はあいにくの雨模様となりましたが、それでも多くの人々が会場に足を運びました。音楽や朗読、「すみだのうわさプロジェクト」を通して、参加者それぞれがすみだの歴史や魅力を改めて感じるとともに、「すみだ五彩の芸術祭」をより多くの方に知っていただくきっかけとなったのではないでしょうか。